2014年11月26日発売の「バドミントン外交官」より一部抜粋。
ジャングルの案内役は澤田紘さんというブルネイ在住三〇年の男性で、車中ではとてもにぎやかだった。現ブルネイ日本友好協会事務局長である澤田さん(二〇〇七年には日ブルネイ間の友好関係促進が認められ、麻生外務大臣表彰を受賞)は、一九七八年にブルネイの肉牛農家の育成を図るために設立したマクファーム社の農場長を務めた経歴の持ち主である。
私よりも先にブルネイに着任した仁坂大使は、澤田氏が日本人会の創設や在留邦人のために日本語補習校の開校、ブルネイ日本友好協会設立などに尽力した功績があることから、ブルネイに精通した人物の一人として親しくされていた。
私はそれまで澤田さんと面識がなかったので、大使とのやりとりの聞き役となっていたが、二人は、「先週あそこで珍しいのを見た」とか、「見たこともないのを取り逃がした」などと蝶の話題で信じられないほど盛り上がっていた。
結局、無数の蝶の乱舞には出会うことがなかったが、雨でできた水たまりに集まる蝶の群を見ることができた。すべて獲った蝶々だとして、見向きもせずにさらにどんどん奥地へと行く大使と澤田さんと別れを告げ、私はその場に腰をおろして二人が戻って来るまでずっとその蝶々を眺めていた。