書籍の編集者をやっていてよく聞かれるのは「持ち込み原稿」のこと。
「まったく本を出したことがない人がいきなり出版社に企画や原稿を持ち込んで本になるものなの?」
「コネがないと最初から相手にされないんでしょ?」
「素人の持ち込み原稿なんて読まずに返してるんじゃないの?」
などという質問をよく受けます。
しかし、そんなことは──少なくとも弊社に限っては──ありません。
なぜならば出版社にとっては「前途有望なる才能」はのどから手が出るほど欲しいものですし、また、こと単行本の場合、書店さんの店頭では新人も有名作家も横一線のスタートです。
また読者のみなさんにとっても、大事なのは著者の肩書きや知名度ではなくて、面白いもの、心を打つもの、新しい世界に目を開いてくれる本であるかということのはず。
だからこそ、編集者は持ち込み原稿にもかならず目を通します。
もちろん、「残念ながら」とそのままお返しするほうが圧倒的に多いのですが、しかし、ごくごくたまに「これは」と思う、きらりと光る原稿があったりするのです。
そうした原稿と出会うことはまさに編集者の醍醐味とも言えるでしょう。
(……まあ、それでそのまますんなり本になるわけではなく、そこからが実は大変だったりするのですが)
さて、今月26日に発売になるこの本はまさにそうした「持ち込み原稿」の中から花開いた一冊です。
著者の大河内さんが弊社に原稿を持ち込まれたのは2012年の春のこと。
ブルネイの日本大使館に二等書記官として赴任し、現地で「バドミントン外交官」と言われるくらい、さまざまな人とプレイをし、ついには謎のベールに包まれたブルネイの王族とも知り合いになった──というあらすじだけで「そんなことってあるんだ!」という新鮮な驚きを感じましたし、また、その「バドミントン外交官」になるまでの道のりがけっして平坦なものではなく、むしろ逆境からの出発であったというところに共感を感じたのです。
とはいえ、その持ち込み原稿が本になるには、これまた紆余曲折がありました。
著者の大河内さんには書き直しや加筆を何度もお願いしてきました。普通の人だったら「もう面倒だからやめよう」と思ってもおかしくないほどに………。
でも、さすが赤道直下の国でバドミントンを毎日のようにやっていた大河内さん。粘りとがんばりは人一倍で、ついにこうして本になりました。
もちろん、執筆で苦労したら本が面白くなるとは限りません。
でも、この本は間違いなく面白い。
何しろ、この3年間というもの、大河内さんの原稿を繰り返し、繰り返し読んできた担当の私が、今でも「面白い!」と思って読んじゃう大傑作なんですから。